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2019.07.24

訪問診療ブログ『七夕の結願(けちがん)』

金谷潤子
7月7日

本日四国八十八ヶ所霊場を全て周り終えて(これを結願と言います)、一番札所霊山寺に戻り満願の御朱印を受けました。
5年前の5月に家族4人で初めて行ったお遍路参り。
その後は子供達はもうお付き合いしてくれなくなり、2人でコツコツと週末を利用して周って来ました。
1日に周るのは1ヶ所からせいぜい多くても7ヶ所くらい。全部で10回くらい足を運んだでしょうか。
思い返してみると、長い様であっという間でした。
始めた頃はまだそれ程人も居なく、早朝や夕刻の山寺は人気も無くて味わい深いものがありましたが、最近の御朱印帳ブームで観光バスや外国人ツアーも増え、随分賑わう様になって来ました。

最初は私も単なる御朱印集め、道の駅スタンプラリーのつもりで気軽に付き合って始めたお遍路参りでしたが、回を重ねるごとに仏教の奥深さ、死や老、病苦に対する意識、自分自身の魂の在り様などを感じる心がまるで導かれる様に研ぎ澄まされてくるのを感じていました。
修行とは(こんな車遍路ごときで修行などと抜かしてはいけませんが)良く考えられているものだと感心します。
長い歴史の中で人はいつも迷い、悩み、憂い、苦しみ、そして神や仏に祈ることで不安や欲望から解放されていくのでしょう。

人生に必要なことはそれほど多くは無いのだと思います。
たくさんの物を持っていても、
どれ程の経験をしても、
今生が終わる時には全て脱ぎ捨てて、真っさらな魂になり次の世に向かうのですから。

どれだけ感謝できるか、
どれだけ満ち足りるを知るか、
それこそが人生で得る、まことの「生きる」意味なのかもしれません。

「死」に多く対峙する私には、ありがたい道程でした。

八十八ヶ所目のお参りを済ませて、参道を出ようとした私たちに1人の高齢男性が話しかけて来ました。
足元はおぼつかなく質素な身なりで、手にしたレジ袋から個包装のおせんべいを2枚ずつ私たちにくれました。
「これで病気が治りますよ。」
きっと彼は弘法大師様だと瞬間に思いました。
何度となくお参りをしていても、そんな風に語りかけてきた人など居ないのです。

「もう煩悩から解放されなさい。
心に多くを持つのはやめなさい。」

と、お伝えして下さったのではないか。

5年のお参りで得たものを、今一度反芻し心に刻んで、
明日からの医業に生かして参ります。

2019.07.24

訪問診療ブログ『高齢者にごまかしは効きません』

金谷潤子
6月26日

訪問診療で高齢者のお宅に伺うと、良く目にするのは国会中継のテレビです。
皆さま真剣にこの国の明日を見つめておられます。

多くの施設や通所サービスで、折り紙や風船バレー、塗り絵などが提供されていますが十把一絡げに、まるで幼稚園のように「させられている」のはいかがなものでしょう。
お話してみると「仕方なく、してやってる」のだそうです
切なかろうとお察しします。

しっかりしておられる方も多くいらっしゃいます。
人生100年の時代に、定年が65歳。
40年近くを年金や備蓄で賄うのはおかしな話です。
大切な知識や技術を活かす雇用こそが求められています。
若い頃のような就業時間ではなくても、扶養の必要性が殆ど無く、足るを知る高齢者には十分な収入となるでしょう

社会参加が可能となれば、役割喪失から生じる認知症周辺症状も消失し、医療に頼らない高齢者も増えるでしょう。

高齢者は人生の先達です。
私をはじめ、多くの若者など叶わない人生経験をお持ちであることを忘れてはいけません。
心からの感謝と尊敬の意を持ち、時にはお手伝いをさせていただく。

ごまかしなど効かないのです。

2019.07.24

訪問診療ブログ『高齢者の尊厳』

金谷潤子
6月11日

1年ほど前にご紹介いただいた高齢女性。
初診時は落ち着かない風で、ずっと何かをブツブツ話しておられました。
少しのことで直ぐに怒り始めてしまう。
同居のご主人様も近くにお住まいの娘様もかなり疲れ果てているご様子。
徘徊もありました。
出されていた薬の中にはアリセプト(ドネペジル塩酸塩)がありました。
異常な怒りん坊になっている方は、この薬剤が出されていることがあります。
適応を選べば刺激を与える役割を果たしてくれるのですが、使い方の大変難しい薬剤です。

ゆっくりお薬も変更、調整していきました。
今は
メマリー10mg1錠1×朝
クエチアピン12.5mg2錠×朝夕
ツムラ抑肝散 3包3×毎食前
で、しばらく良い状態が続いています。

この方は訪問看護さんが入っていない為、娘様とショートメールでやり取りをしながらご様子を把握して来ました。

「母さん、そんな事したらダメよ」
「危ないからやめて」
「もう、食べたでしょ。さっきも言ったよ。」

…これらはNGワード。

ご本人の治療ではなく、娘様へのアドバイスが大切でした

①ご本人を否定しないこと
②何かできることをやっていただくこと(危険と思われることでも思い切って)
③たくさん感謝し、誉めること

娘さんがくじける度に、「お母様は家事のエキスパートでしっかり者の母親でありたいんですよ、いつまでも。それを叶えてあげましょう。そうすると、穏やかで頼もしいお母様に戻っていきますから」
と励まし、細かな作戦を伝えて来ました。

娘様は時々失敗しながらも、自分で学んでいきました。
お母様を否定すると、お母様は荒れて落ち着かなくなる。
それを実感しながら作戦を前に進めて来ました。

そうするとお母様は少しずつ自分を取り戻していきました
通う「デイサービス小春」さんは、利用者参加型の素敵な取り組み。
お昼やオヤツも役割分担して皆で一緒に作ります。
小春さんの寄り添いも大きな助けとなりました。

今日はそんなスーパー母さんの今までの作品をたくさん見せていただきました。
お母様の手芸や洋裁の腕前はプロ級です。
今日お父様の着ているシャツも素晴らしい縫製のお手製でした。
往診時に誉めると、はにかんで嬉しそうなお母様。
どれほど多くの手作業をご家族に施して来たことでしょう
お母様の偉大な人生の歴史です。

「羨ましい〜。私もこんなお母さん欲しかった〜」と言うと、娘様が「ダメですよ〜」とお母様を優しく引き寄せ本当に嬉しそうな幸せそうな瞬間です。

ご自宅を一歩出てお母様に聞こえないところで、娘様と本題の会話をします。

さて、最近のお困りごとは?

「晩御飯を食べた後、何もすることが無くて少し落ち着かない感じなんです。」
「では、お母様にひと仕事していただきませんか?
町内会でバザーがあるとかそんな事にして、お手玉とかなにか小物を手作りして欲しいと頼んでみては?
晩御飯のあとは30分でも良いのでバイトの時間にしませんか?作る材料を調達して、1つ50円とかちゃんと売れたことにして。代金もお母様にお支払いして。何なら当院で買わせていただきます!それでお礼を何か買っても良いですね。お花とか。」

「そっか!私が材料も全部用意して頼んで、ささやかなバイトを頼まれた風に装えばいいのね!なるほど!
やってみます!」

素直で一生懸命な娘様は、忘れん坊さんで怒りん坊さんの高齢者にどのように寄り添えば良いのか、今やプロフェッショナルです。
1年前は神経質で怯えたような表情の娘様でしたが、今はたとえ困りごとであっても自信に満ちた愛情溢れる魅力的な笑顔でお話して下さります。

お母様の病状はご家族の鏡です。

「娘さん、どんな施設やデイサービスに行っても最高のヘルパーさんとして活躍できますよ!」
「あら、そうかしら!先生が施設作ったら雇って下さいな〜」
そんな会話をしながら今日の往診を終えました。

いつか、高齢者にもたくさんしていただきたいことをいくらでも用意できる世の中になりますように。

皆さま、高齢になった時にホールに集められて、十把一絡げにテレビを見せられたり塗り絵をさせられたりしたいですか?

長い人生を経て来た「ご自分」は100人いらっしゃれば、全て全く違います。
趣味も好みも何もかも。
生き方も。
そして、私たちよりもずっと経験値をお持ちです。
どんなに忘れん坊さんになっても、お得意な事の記憶はしっかり保たれることも多いのです。

お幾つになっても自分のお得意なことが、世の中の役に立つ未来でありますように。


※写真はこのお母様のお手製のシャツを着たご主人様です。丁寧で愛情こもった素晴らしいシャツです。

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