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2019.07.24

訪問診療ブログ『サザンを聴くために』

金谷潤子
6月8日

今週末、サザンオールスターズのコンサートが札幌で開催されています。
たくさんのファンの方が色々な思いを胸に、夢のようなひと時を楽しんだことでしょう。
その中に私の患者さんご夫婦もいらっしゃいました。

若い癌末期の奥様。
私の2月の市民講座「大往生しよう!」をご夫婦で聞きにきてくれたそうです。

「もうお迎えが近くて状態も悪い時に、お風呂に入ったり、どこかに行こうとしていて、それで力尽きて亡くなったとしても良いではないですか?ご自身の楽しみや嬉しさに向かう気持ちを胸にしっかりと携えているならば、たとえその望み半ばだったとしてもその幕引きは幸せなものではないですか?入浴中の大往生や、どこか行きたいところに向かう途中での大往生、ステキでは?」

という私の話が奥様にとっては目から鱗で、「やりたいこと、我慢しなくていいんだ。この先生に最期まで診てもらおう」と思って下さったそうです。
ありがたいことです。

先週知ったサザンオールスターズのコンサートの話。
ご体調にはかなり波もあり諦めかけていましたが、優しい訪問看護さんの寄り添いや、私とご主人の日毎のメールでの体調確認などに少しずつ安心感と自信を持って下さり、「行ってみたい」と。

ご夫婦の思い出いっぱいのサザン。
それは何としてでも叶えないと。
福祉用具の田村 拓也さんに相談すると、体調不良の際にリクライニングすることができる車椅子のレンタルをその日のうちに都合付けて下さいました。
酸素の東京ホームケアさんは、車椅子装着用のボンベとバッグを直ぐに手配して下さり、訪問看護さんには週末に万全の状態に整えるための点滴や体調管理の計画をお願いして。

そして、今日は「大丈夫だったかな?」と朝からソワソワ心配してたところ、先ほど、ご主人からコンサート無事に楽しんで来られたとのご報告がありました!!
(写真はご主人がメール添付してくれた会場の様子です。
「途中で帰って来ても全然良いから!」と、背中を押してましたが、ご体調も良く最後まで満喫できたとのことです
嬉しくて嬉しくて、関わるチーム全員にご報告しました。

尊い時間を叶える為の工夫をこれからもチーム皆で形にしていきたいと思います。

2019.07.24

訪問診療ブログ『在宅看取りを知っていただく事』

金谷潤子
5月28日

お看取りが数日続きました。
在宅でお看取りさせていただいた後には、ご紹介元の病院や後方支援を頂いていた病院へのご報告をしています。
まだまだ在宅医療の現場のことは病院では実感できないことが多いと思いますので、看取りまでの経過を少しでも知って頂くことが必要と思っています。
本日も癌末期の患者さまのご報告をこの様な文面で送りました。

『平素大変お世話になっております。
患者様は◯月◯日からフェントス0.5mgで鎮痛開始、徐々に疼痛の増強見られましたがお粥や好きなものを少量摂取されて穏やかにお過ごしでした。
意識レベルも緩やかな低下の経過で、ご家族様は看取りへのお気持ちの準備も十分できたのではと感じています。
3日前には楽しみにしていた訪問入浴を済ませ、2日前には本州から娘様が来られました。
◯月◯日、朝から高熱と下顎呼吸となり◯時◯分に死亡診断させていただきました。
お身内皆さまの見守る中でお顔はとても満足そうな表情でした。
この度は後方支援を頂いているおかげで、ご家族、在宅チームともに安心してご本人の終末期療養を支えることが可能であったと深く感謝申し上げます。
今後とも良い連携を頂けますと幸いです。』

娘様が来られてから、まるで待っていたかの様にお食事も数口堪能して旅立ちました。
少し忘れん坊さんの高齢の奥様は精神的ストレスでご体調を崩されるのでは?と心配もしましたが、看取りの時にはむしろご主人の「最期まで家に居たい思い」を叶えられた高揚感と達成感を感じているご様子でした。
「本当にお疲れ様でした。どれほどご主人様が感謝されていることかと思います。
奥様の寄り添いを仏様もちゃんと見ておられて、お礼に長生きしなさいと言って下さいますね。」
と、話すとクシャクシャの笑顔で恥ずかしそうに
「そうでしょうか。そうだと良いのだけど。」と喜んで下さいました。

看護師さんと娘さんで、若々しいポロシャツ姿にお着替えされたご本人はご自慢の(何度も自慢話をされていました)ご自宅で一際輝いている様な旅立ちでした。

合掌。

2019.07.24

訪問診療ブログ『在宅看取りの立役者』

金谷潤子
5月25日

今朝早くにご自宅でのお看取りがありました。
ご家族多くに囲まれての旅立ちでした。
メディアでも多く取り上げられ、高齢者の療養先病院ベッド数が間に合わなくなっていることもあり、在宅や施設看取りは確かに増えてきているのですが、一般の理解に対して少し違和感を感じることもあります。

在宅看取りで一番大切な鍵を握るのは看護師さん(多くは訪問看護師さん)だと私は思っています。
いつも医者がヒーローのように思われますが、
実際に患者さんの元に頻回に出向き、
身体を拭いたり、
点滴をしてくれたり、
排便の手助けをしたり、
お風呂に入れてくれたり。

その生活に溶け込み、優しい声かけや勇気付けや労いを添えながら、身体のケアをしてくれる。
それは心のこもった、旅立ちの支度のお手伝いです。

この話は何度も話していますが、
医者は看護師さんが安心して「患者さんの看護」に専念できるように、
頭をひねり尽くして、最大の安心を引き出すための薬や処置や治療計画を立て、
適切なタイミングでご家族やご本人に十分な説明をする役割です。
医療は医者だけで行われるものではないのです。

ドラマや映画や本などを見ていると、医者が医療の主役に思われるかもしれません。(紹介の仕方としては医者を主役にして語らせた方が確かに分かりやすいのですが)

けれども在宅療養に於いては、その方に施される「治療」は病院で行われるものに限らないのです。

「人が人を癒やすために考えうる全ての方法」が、「住み慣れた場所」では繰り広げられるのです。

音楽や言葉や生活音や人の手の温かさや、小さな思いやりや思い出の味や、書き尽くせない色々。

ですから、医者は終末期を迎えている方の心身を整える(痛みや苦しみが無くて安心して眠ることができる…という基本をきちんと整える)ことに徹すれば良い。

ご家族や近しい方々が、旅立つ方のお手伝いを安心してできるようにしっかりと先導を取るのは看護師さんだと私はいつも考えています。

今朝も私が死亡診断を終えると、訪問看護さんお2人はエプロン姿で患者さんにずっと話しかけながらお身体を丁寧に拭き、お好みのお召し物にお着替えをして下さりました。
泣き疲れているご家族にも、絶妙のタイミングでそれらの手伝いをさりげなく導き、ご本人のエピソードに花を咲かせていきます。
そこには愛があり、人の優しさが溢れていました。

私は一文字一文字死亡診断書を書きながら、その、悲しいけれども暖かい「プロフェッショナルな儀式」に感謝と感動を感じていました。

素敵な訪問看護さん、施設看護師さんが増えることで、福祉介護の方々と医療を結びつける橋が大きく強くなっていく未来であって欲しいと願います。

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