最新の健康医療
健康は極めて大切だということに反対する方はいないでしょう。では、どうやって健康を維持するかは考え方が様々で、まめに健康診断をして早期発見早期治療に努めるという方もいれば、様々な情報を入手して病気の予防に努めるといった方、また、全て運に任せて好きなように人生を謳歌するといった方もいるかもしれません。
高齢化に伴い、我が国でも癌患者が増加しています。しかし、アメリカでは近年、癌による死亡はむしろ減少しており、日本とは逆の現象が起きています。これは、早期発見、早期治療の成果というよりはアメリカでは国民に「予防医学」が広く浸透していることが大いに関係していると思われます。予防医学といってもその方法はいろいろありますが、アメリカでは最近「自然療法医」ND(naturopathic doctor)という資格が認められる州も増えてきており、多くの癌患者などが彼らによる代替医療を受けています。
代替療法とは、厳密には「通常医療の代わりに用いられる医療」をいいますが、単独で病気の完全治療効果を得ることは少なく、実際には通常医療と併用され、統合医療といった形で提供されることが多いです。「人はその人が食べたものでできている」。栄養療法は「医食同源」といわれるように極めて有効性の高い自然療法の一つです。高濃度ビタミンC点滴療法はノーベル化学賞を受賞したポーリング博士が報告して以来、癌に対する代替療法として広く用いられており、近年では、癌以外に様々な慢性疾患の治療に使われています。ビタミンC以外の栄養を効率よく摂取する方法として様々なサプリメントを用いる栄養療法は、「オーソモレキュラー療法」といった形で、カナダの精神科医ホッファー医師によって進められ、精神疾患を薬物を使わずに治療する方法として認められています。(http://www.orthomolecular.jp)
キレーション療法は、動脈硬化をはじめ、様々な血流障害に起因する病気の治療に用いられ、心筋梗塞に対してもバイパス手術を選択しない場合の代替療法として有効性が報告されています。
現代医療が、人類に長寿を当たり前のものとしてくれたことに疑いの余地はありません。しかし、本当に必要な健康寿命の延長にはそれだけでは不十分です。健康寿命の延長には、予防医学に配慮した新たなアプローチが必要と考えます。
GOのはなし−深〜い囲碁の話−
囲碁(いご)とは、二人で行うボードゲームの一種です。ルールは単純で交互に盤上に石を置いていき、自分の石で囲んだ領域の広さを争うというものです。単に、碁ともよばれます。私と囲碁の出会いは、今は亡き父が趣味としていたため、子供の頃に始めたことによります。当時は、一局打つと10円もらえたので、小遣い欲しさでしたが、そのうち面白くなってきました。
囲碁の歴史は古く、中国で紀元前に始まり、2千年前にはすでに庶民のゲームとして一般的でした。日本には吉備真備らの遣唐使以降伝わったといわれています。昔は女性もよくたしなみ、紫式部や清少納言も囲碁をやっていたようです。囲碁は、序盤の布石から中盤の戦い、終盤のヨセと戦略性に富み、実際の戦闘にも似たところが多く、岡目八目、定石、一目置く、駄目、八百長、布石、捨て石、死活問題、大局観、目算など、ことわざになっている言葉も多数あります。
私は麻酔科医ですが、麻酔と囲碁の関わりも二つほどあります。一つは、三国志で有名な関羽の逸話で、腕の矢傷の治療を受けるのに囲碁を打ち気を紛らわして麻酔なしで手術をしたというものです。この時に治療を担当したのが伝説の名医といわれる華佗(かだ)です。華佗は『麻沸散(まふつさん)』といわれる世界で最初の全身麻酔薬を発明したことで有名です。しかし、華佗は曹操によって殺されてしまい、麻酔薬の秘密は永遠に謎になってしまいました。余談ですが、この『麻沸散』の再現に挑戦し『通仙散(つうせんさん)』という麻酔薬を発明したのが華岡青洲(はなおかせいしゅう)という日本の医師で、記録上は世界最初の全身麻酔として日本の誇るべき業績です。もう一つは、日本の名棋士の一人、趙治勲(ちょうちくん)で、彼が交通事故でケガをした時に、手術のために麻酔が必要だとしても、「碁が弱くなっちゃいけない。麻酔だけは打たないでくれ。」といって、麻酔なしで手術を受けたことです。ただ、現代の医療で、麻酔で碁が弱くなるとは考えられませんし、ご本人も全身麻酔で手術を受けたといっており、盛り上げるための作り話です。
あと、最近話題になったのは、AI(人工知能)と囲碁の話です。AIとの勝負は、チェスに始まり、1997年にIBMの「ディープブルー」が世界チャンピオンを打ち負かします。しかし、将棋や囲碁はずっと複雑なので人間の方が優位でした。その後、AIはさらに進歩を続け2013年には将棋、2015年にはついに囲碁の欧州チャンピオンにも勝利します。2016年には、世界最強棋士にも勝ち越します。今後の我々人類の未来はAIに握られるようになるかもしれません。
北海道は癌になりやすい?
2人に1人が癌になる時代と言われています。日本は名だたる長寿国で、医療レベルも高いのに何故でしょうか。長生きになったため、他の病気で命を落とさず癌くらいでしか死なないという捉え方もあります。しかし、癌の死亡率には地域差があることはあまり知られていません。
2017年の国立がん研究センターの報告では、東北・北海道の癌死亡率が男女共に全国に比べて高いのです。これは、どのように考えたら良いのでしょうか。最も低い長野県に比べ、北海道は1.5倍程です。北海道は、人口に対する医師数の面では全国で平均的なレベルであり、特に医療が受けにくい環境ではありません。手術に関しては、麻酔科医がきちんと術中管理をしている病院も多く、安全に手術が行われています。
同様の傾向は、北半球の地域に多く見られます。他に、北半球に多いと言われる疾患は、高血圧、インフルエンザ、うつ病などです。これらの地域に共通していることは冬が長く、日照時間が短いことです。日照時間が短いと体内のビタミンD濃度が低下します。ビタミンDの合成は皮膚で行われ、その合成には紫外線が不可欠です。したがって、日焼けを避ける今日の生活様式は北半球ではビタミンDの低下がさらに酷いことになります。ビタミンDは、免疫、Ca代謝に大きく関わっています。すでに活性型ビタミンDは骨粗鬆症の薬として使われています。
食品としてビタミンDを多く含むのはレバー、鮭などです。きのこも天日干しになったものはビタミンDになります。キノコも鮭も秋の恵みとしてよく知られたものです。そう考えると、昔の人は誰にも教えられずに予防医学を実践していたことになります。最近の世界の医療のトレンドは最先端医療の追求よりは予防医療の推進です。予防医療の観点からは、ビタミンDをサプリメントで補充することが勧められています。1日5,000単位以上のビタミンDの摂取をお勧めします。