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2019.11.15

訪問診療ブログ『語りかけと温もりの持つ力について』

金谷 潤子
11月1日

高齢で寝たきりとなり、意志の疎通もできない状態、
或いは終末期でもうお迎えの近い親御さまに、
息子さまや娘さまから
「何を話したら良いか分からないのです」
と、ご相談を受けることがあります。

「母は動けないし食べれないから、
辛いだろうと思うと話題も選んでしまって。」

「もう死を待っているだけの父さんに、
なんて声かけて良いか分からない」

「病院に行ってもする事も無いので
顔を見たら直ぐに出てきてしまうんです」

「自分の親って、なかなか話す話題無いですよね。
目を開けてても寝たきりで話もできないから…。
眠っててくれると、安心して家事もできるからホッとしちゃうんです。」

息子さまや娘さまも、
もしご自身のお子さまがいらっしゃるのであれば
良く分かるでしょう。

我が子が学校から帰ってきて
「あのね、今日ね…」から始まるどんな報告も
楽しく嬉しかったり、
一緒に悔しい思いをしたり、
一緒に涙したり。

自分が食べてない美味しいものを、
我が子が食べてきて嬉しそうにそれを報告したら
不愉快な気持ちになりますか?
自分が行けないところに、我が子が旅に行ったと教えてくれたなら、悔しくて悲しくて憂うでしょうか?

親御さんは子供のどんな話も嬉しく聞くでしょう。

今日こんなことがあったよ。
昼ごはんには新蕎麦を食べたよ。
雪虫が飛んでいたよ。
懐かしい友達に会ったんだ。
実は悩んでるんだ。
久しくお会いしてなかった間のものがたりも。

お話できなくても、
相づちすらできなくても、
きっと親御さんは聞いている。
知らないことでも、
興味無いだろうことでも、
子供さんの話はしっかりと心に届いている。

そうかい、そうかい。
良かったね。
それは嬉しいね。
楽しそうだね。
飲み過ぎないようにね。

どんなことでも
どんな些細なことでも嬉しいに違いない。

手を握ってくれるだけでも。

小さな頃から育ててきた我が子の手は
今は大きくゴツゴツになっていても
親御さんの心の中では
いつまでも小さな可愛らしいもみじの手。

もみじの手で触れてくれたなら、
どんなに幸せだろう。

昔ギューっとしてくれた様に、
寝たままであっても頬寄せて抱きしめられたなら
どんなに嬉しかろう。

ですから、
親御さんのところで
ご自分の思いつくこと何でも
お好きに話すと良いと思います。
言葉を見つけられなかったら、
手を握ったり頬に触れたり、ハグするだけでも。

寝たきりだったり意識が無いと見える方でも、
耳は聞こえています。

触れても何も反応しなくても
誰の手か誰の温もりかきっと分かります。

私もきっとそうだと思うから。

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