先日、A4M (The American Academy of Anti-Aging Medicine)という学会に参加してきました。
これは、1992年に設立された学会で、今年で32年目になるアンチエイジングの集大成の学会です。通常は学会は専門分野ごとに分かれるのですが、医学のジャンルの垣根なく人間の老化をテーマに基礎医学から臨床まで、幅広いテーマが取り上げられます。私も、すでに5回目の参加になります。途中、コロナの影響で3回ほど欠席しましたが、約10年ほど参加してきました。
この分野の研究はアメリカが一番進んでおり、約10年遅れて日本に到着する感覚です。その中で、ここ最近変わってきたのは、アンチエイジングからリバースエイジングに関心が移ってきたことです。リバースエイジングとは、まさに若返りを意味しています。具体的には、治療によって年齢を巻き戻すことが可能になるかもしれないということです。そんな学会ですが、今回特に、記憶に残ったのは女性の寿命を延ばすという発表でした。
人間の寿命は年々伸びてきましたが、最近問題になっているのは健康寿命がそれほど伸びないことです。特に女性の場合には、男性より随分と長生きしますが、寿命を迎える前には10年ほどの重い病気の期間があることが問題になってきています。医学の進歩は、心臓をより長く動かせるようにはなってきましたが、人工的に長生きしても、実際には極めて満足度の低い状態を過ごしているという実情があります。特に問題になるのは、ヒトの体の老化の仕方は一律ではないということです。臓器によって老化のスピードが違うので、長期にわたって何の手当てもせずに無事な部分もあれば、早くから不調を来しやすい臓器もあります。
女性の場合、特別早く老化しやすい臓器として、卵巣があります。多くの場合、女性は50歳までに閉経を迎えます。卵巣は、女性ホルモン産生という重要な働きがあるのですが、閉経によってその働きを止めてしまいます。これが更年期障害の原因ですが、その後、さらに4,50年の寿命があります。このことは、女性の健康に大きな影響を及ぼします。閉経の遅い女性ほど寿命が長いことが知られていること、動物実験では、老化したマウスに若いマウスの卵巣を移植すると寿命が伸びたことから、女性ホルモンには寿命を延ばす効果がありそうです。
卵巣の細胞数は生まれながらに決まっていて、胎児の時代が最大で、その後どんどん減っていきます。成人女性であれば30万個くらいですが、毎月1000個ずつ減少します。そのため、閉経の時期にはほとんどなくなってしまいます。
したがって、女性の寿命を延ばすためには、①女性ホルモンを補充するか、②卵巣の寿命を延ばすという方法が有効です。①のために現在行われているのは、天然型女性ホルモン補充療法です。合成ホルモンは発癌のリスクがあるので推奨しません。さらに、未来には卵巣組織だけをカプセルに入れて体内に埋め込む方法も考えられています。②の目的では、本人の卵巣を凍結保存する方法や、抗ミュラー管ホルモンを上げる方法が期待されています。特に、最後の方法はもし実現すれば女性の妊娠可能年齢を延長させることが可能になるかもしれません。
いずれにしても、女性ホルモンを途絶させないことが、女性の寿命を延ばす、特に健康寿命の延長に役立ちそうです。