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2023.01.18

訪問診療ブログ『おもうこと』

『おもうこと』

年末には必ず手に取る
長田弘さんの詩集

この詩を読み返して、
自分を振り返る

変わらない自分と
変わっていく自分

しっかりと見つめて、
あらぬ方向や
おかしな手土産や
無理なスピードではないか、など

今年は70人ほどの方の
今生のご卒業に
ご縁をいただきました

おひとり、おひとりの
そのものがたりに
自分が何をできるかを
いつも通り

問い続けながら
最善を願って参りました

コロナの爪痕は
さまざまな形で表れ
いつもより多い
お別れでした

けれどもどの方々も
しっかり生き尽くし
優しい満ち足りたお顔で
旅立って行かれたように
感じております

皆さまも
それぞれの年の瀬を
大切にお過ごしください

……………………………………………

最初の質問                          
                                                          
長田弘
  
今日あなたは空を見上げましたか。
空は遠かったですか、近かったですか。
雲はどんな形をしていましたか。
風はどんなにおいがしましたか。
あなたにとって、いい一日とはどんな一日ですか。「ありがとう」という言葉を今日口にしましたか。

窓の向こう、道の向こうに、何が見えますか。
雨の滴をいっぱいためたクモの巣を見たことがありますか。
樫の木の下で、あるいは欅の木の下で、立ち止まったことがありますか。
街路樹の木の名前を知っていますか。
樹木を友人だと考えたことがありますか。

この前、川を見つめたのはいつでしたか。
砂の上に座ったのは、草の上に座ったのはいつでしたか。
「美しい」と、あなたがためらわず言えるものは何ですか。
好きな花を七つ、挙げられますか。
あなたにとって「わたしたち」というのは、だれですか。

夜明け前に鳴き交わす鳥の声を聴いたことがありますか。
ゆっくりと暮れていく西の空に祈ったことがありますか。
何歳の時の自分が好きですか。
上手に年を取ることができると思いますか。
世界という言葉で、まず思い描く風景はどんな風景ですか。

今あなたがいる場所で、耳を澄ますと、何が聞こえますか。
沈黙はどんな音がしますか。
じっと目をつぶる。すると何が見えてきますか。
問いと答えと、今あなたにとって必要なのはどっちですか。
これだけはしないと心に決めていることがありますか。

いちばんしたいことは何ですか。
人生の材料は何だと思いますか。
あなたにとって、あるいはあなたの知らない人々にとって、
幸福って何だと思いますか。
  
時代は言葉をないがしろにしている。
あなたは言葉を信じていますか。

2022.11.25

訪問診療ブログ『終い支度』

『終い支度』
あるお友達からご連絡がありました
「金谷先生、こんばんは。
高齢の父に
数年前から近隣医で
訪問診療をしていただいております。
最近、とうとう院長先生から
終末期医療について話がありました。
覚悟していましたが、
実際に聞くと、
やはりショックが大きいです。
トイレに行けなくなったので、
3週間前から紙パンツを始めた途端に、
眠ることが増えました。
会話も少なくなり、
いつ逝ってもおかしくないと
言われています。
それまで元気にしていたのに。
急に悪くなるのですね。」
—————————-
「お父様、
ご迷惑をおかけしまいと、
ご自身の終い支度を始めたのですね。
急に具合が悪くなったのではなく、
ご自身で、
しっかりと生きたご確認をされ、
お身体がご卒業に向けて
整い始めたのだと思います。
それは具合が悪いのではなく、
病気でもなく
自然な老いで、
自然な衰弱です。
芽が出て
花が咲き
自然に枯れて
土に還るように
それは
とても自然な
大往生に向けてのお支度です。
お父様、とてもご立派な方ですね。
潔い、
終い支度のあっぱれなお姿を
遠く北からご尊敬申し上げます。
お父様のご卒業を
お心鎮かにお見送りできますよう
願っております。」
—————————-
「そうなのですね。
急に具合が悪くなったわけでは
ないのですね。
家族にも、
先生のお言葉を伝え、
卒業を心静かに見守りたいです。
ありがとうございます。」
写真の説明はありません。
2022.10.26

訪問診療ブログ『魔法の胃の管』

『魔法の胃の管』
まだ若いお母様に
急に重篤な癌の告知が下されました
病院に行った時には
治療はもはや不可能な段階でした
胃に溜まる消化液も
腸に流れずに嘔吐してしまいます
排液の為の胃管が
鼻腔から入り留置されました
飲むことも
食べることも
もうできません
病院で過ごすことが辛く
ご自宅で最期まで
ご家族と過ごすことを決めました
少しだけの点滴を
毎日続けました
欠かさず飲んでいた
大好きなコーヒー
先生?
やっぱり無理ですよね
飲めませんよね
飲みましょう
ステキな胃の管が入ってますから
飲んで直ぐに
そこから抜きましょう
お母様は美味しそうに
淹れたてのコーヒーを
味わい
ゆっくりと飲み込み
娘さまが横で
専用の大きな注射器で
管から吸い上げて破棄しました
喉越しで充分に満足されました
嘔吐も何も起きませんでした
毎日たくさん口にされました
アイスクリーム
お茶
スープ
甘い飲みもの
少しのお酒
2か月ほど毎日
飲食を楽しみ
ドライブも何度も叶えて
大きな苦しみも
痛みも無く
静かに
そっと日常の中で
旅立ちました
違和感や苦痛の印象が強い
胃管留置ですが
この方には
飲食できないはずの終末期を
お迎えの日まで
楽しむことを叶えてくれた
大切な魔法の管でした
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