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2019.04.15

訪問診療ブログ『自分たちで決める生き方』

金谷 潤子
3月28日

進行性難病の患者さま。
ご自宅に帰られて1年半ほどのご縁でした。

ご紹介先の病院からはとうに終末期の診断が下されていましたが、私は強い生命力を感じ、いのちの炎の行き先を見逃さないようなサポートに尽力して参りました。

コミュニケーション不能の寝たきり状態。
しかし、娘さまの家にお連れし、
訪問看護さんや訪問リハビリさん、
訪問歯科の先生など多数の在宅チームが関わる中で、
時おり会話も可能になりました。

娘さまに「ありがとう」のお声かけも何度もあり、
娘さまはその言葉だけで家に連れ帰ってきた甲斐がありますと涙されておりました。

ある日オムツ替えをしただけで大腿骨遠位端骨折を起こしてしまいましたが、
整形外科医師からは「手術適応は無いので固定だけ」との指示。

楽しみにしていた車椅子に乗ることも
リハビリもできなくなり、
オムツ替えやお着替えも痛がるためご家族もなかなか触れることができません。

とうとう皮膚から骨折している骨の端が飛び出してしまい潰瘍となった為、一念発起して、無理だと言う整形外科ドクターを説得して姑息的に接合術をしていただきました。

術後は順調で、またリハビリも可能となり、
穏やかな楽しみのある日常を取り戻すことができました。

他にも謎の重症貧血だったり、色々な局面を乗り越えてきた強い生命力の方でした。
訪問リハビリの先生との嚥下訓練の時間には「今日は何食べるの?」と発語があり、皆びっくりするやら喜ぶやら。

そんな最中に急な体調不良から胃瘻栄養ができなくなり、点滴治療を続けていましたが先行きが難しくなっていました。

先週の日曜に点滴卒業してお看取りの心構えなどじっくりとお話させていただき、娘さまたちも「これ以上苦しませたくない」と同意。

けれどもその晩、驚くほどお母様の呼吸が穏やかになった為、娘さまたちはお母様との時間を名残惜しく思われてご相談があり翌日点滴再開しました。

最小量の点滴でしたが、
数日間のお別れの心づもりの為の時間を支えてくれました。

ご家族だけではなく在宅チームにもたくさんの思いを遺して、今日旅立たれました。

病院には「治療のために」患者さんは訪れますので、大抵の場合医師は病状から治療方針を定めて計画実行します。

しかし、在宅医療では「治療を望むかどうか」はご家族やご自身が決めるので、主体性が逆転しています。

私たち在宅医療者は、在宅でどのような医療行為や時間の過ごし方をできるかを説明し提案させていただく役割です。
その上でご自身やご家族が選択した生活を「叶えるためのサポート」をしっかりとしていきます。

それが病院医療と在宅医療の大きな違いです。

病院にお任せではなく、
どうありたいかどう生きたいかを考える。

この方も常にご家族にリスクと可能性を説明しながら、
考えていただき、
選んでいただき、
迷いながら、共に作り上げてきた、
在宅療養生活でした。

最期はご家族にしっかりと見守られ、ひと息を終えて旅立たれました。

ひとつのいのちに関わらせていただいた
多くの学びを次に繋げて参ります。
本当にありがとうございました。

合掌。

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